キリスト受難詩と革命―1840~1910年のフィリピン民衆運動 (叢書・ウニベルシタス)



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キリスト受難詩と革命―1840~1910年のフィリピン民衆運動 (叢書・ウニベルシタス)
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色あせぬ現代的意義

原書は1979年刊行。本書の価値が依然として色褪せないことは認めつつも、それにしてもずいぶん時間がかかったものだ。では、26年前に刊行された1冊のフィリピン歴史研究書が、現代のわれわれ(日本語読者)にどのようなインパクトを与えうるのか。

第一に、『キリスト受難詩と革命』は民衆の反乱や抵抗を、民衆の間で伝承されてきた賛歌、詩歌、恋歌といった資料を用いて、民衆自身の意味世界の枠組みで理解しようとする「底辺からの歴史」の試みである。これは、近年のポストコロニアル・ターンを経験したわれわれにとってすでに馴染み深い視座だといえる。カレントな方法論を経由して、われわれは本書の意義を再吟味する機会を与えられている。
第二に、スペイン植民地時代末期から継続するキリスト受難のモチーフが、近年のフィリピンの政治的状況にどのように現れるか示唆する点である。すでに、1986年二月革命については本書と同様の視角から清水展(1991)による研究がなされているが、それでは2001年のピープルパワー2は、それに続くピープルパワー3はどうであったか。民衆対エリートという階級や力についての単純な対立図式からは読み解けない公正さや尊厳というキーワードを含み込んだ現代的民衆運動のありかたを、政治と文化(そして宗教)にまたがるものとしてとらえていく視点を本書は提供している。
第三に、現代社会における宗教の複雑な役回りについて。本書を一読すれば、民衆の中で宗教的なものと政治的なものが矛盾することなく抵抗や革命のイディオムとして作動している様子が、いきいきと描かれていることに気づくだろう。19世紀のフィリピンの民衆運動から、9/11に代表されるような宗教的言説が政治的アリーナで直接的に取引される極めて現代的な葛藤についてわれわれは思いをめぐらすことができるだろう。



法政大学出版局
歴史と英雄―フィリピン革命百年とポストコロニアル (神奈川大学評論ブックレット)